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災害 被災した子どもを支援する方々へ(医療者、教育者向け)

この手引きは、看護師、保健師、心理士、養護教諭など子どものこころのケアを行う方々を対象に、日本児童青年精神医学会・災害対策委員会が作成したものです。

1.はじめに

災害にあうと、その後精神医学的な問題が長期にわたっておこる子どももいます。災害が発生してから1ヶ月程度(災害によってこの時期は異なります)の間に、子どもたちが適切なケアを受けられると、精神医学的な問題が起こることを一定程度予防することができると考えられています。この時期に子どもにとってストレスとなるものは、災害の衝撃そのものから引き起こされるものと、災害後の不自由な生活状況から引き起こされるものがあります。

2.急性期の心理的なサポートの目的

  • 1) 被災した子どもや家族が少しでも安全に過ごすことができ、少しでも安心を感じられるようにします。
  • 2) 混乱している子どもや家族と関わり、気持ちを落ち着かせ、周囲の人たちとのつながりが持てるようにします。
  • 3) 被災した子どもや家族が適切な行動をとれるようにアドバイスし、少しでも自信を取り戻せるようにします。
  • 4) 被災した子どもを、家族、友人、ご近所、学校や幼稚園や保育園などの慣れた生活環境に戻していきます。
  • 5) 災害のもたらす心理的な影響についての正確な情報を提供し、被災した子どもや家族が対応しやすいようにします。
  • 6) 専門的なケアが必要な子どもを見つけて、ケアが受けられるように紹介します。

3.心理的サポートを行う際の原則

  • 1) その場所の様子や雰囲気をよく観察し、介入すべきかどうかよく考えましょう。
  • 2) 急に話しかけるとこわがってしまったりおびえてしまう子どももいるので、まずは相手にこちらがいることを知ってもらいましょう(例えば相手が小さい子どもならおもちゃを見せるなど)。
  • 3) 話しかけるときの距離や目の高さや声の大きさに気をつけて、相手の緊張が少なくなるようにしましょう。
  • 4) できるだけ、わかりやすく短いことばで話しましょう。漢字であらわされる言葉よりも、ひらがなやかたかなで表される言葉のほうが子どもにはよいでしょう。
  • 5) 親を援助することで、親が子どもに十分な情緒的支えを提供できるようにしましょう。
  • 6) もし被災した子どもや家族が何か頼み事をしてくれたら、できることなら待たさずにすぐに対応してあげましょう。今すぐに対応してあげることで信頼感や安心感が増します。
  • 7) 被災した子どもや家族が話した最も気になることをしっかりと聞き、それ以外に話を拡げないことを原則と考えましょう。
  • 8) 安全でないのに励まそうとして「安全だよ」と言ったり、全くわからない状況で「大丈夫だよ」と安易に保証することは原則として避けましょう。
  • 9) 災害直後の大部分の情緒的な反応は異常なものではなく、「今は特殊な状況だから、こういった反応がおこることはおかしなことではない。」と考えられるものです。安易に病気として取り扱いすぎないようにしましょう。

4.支援を行う場所

災害発生直後は、病院などへ心理的なケアを求めてくることはあまりありません。また、この時期には精神医学的な問題が悪化することを予防することが重要ですから、避難所や被災した現場へ出向いて、支援を展開することが必要です。

5.現場で行う支援

1)被災した子どもや家族と関わる

(1)目の前で混乱している子どもへの対応

その子どもがひとりぼっちなら、その子のことを知っている人を探しましょう。そして、子どもが混乱している状況について情報を集めましょう。
その子どもが親と一緒にいれば、親が子どもに上手に関われるように援助します。親も一緒になって混乱している場合には、親を安定させることが重要です。この際、親が自信を失うような状況にならないように注意してください。

混乱している子どもを安定させる方法には次のようなやり方があります。

  • まず、こちらが近くにいて、関わろうとしていることに気付いてもらう。「こんにちは、私は○○です。保健師をしています。」と言って、所属機関名の入った名札などをみせる。
  • 「お名前はなんていうの?」「大丈夫ですか?」など簡単に答えられる質問をする。
  • 話が出来るようであれば話を続ける。
  • 「気持ちがつらくなると、混乱してしまってどうしていいかわからなくなるよね」「混乱しても時間が経てばすこしずつましになっていくからね」「ゆっくり深呼吸すると、楽になるかも。やってみようか。」と言ってできそうならば、一緒にやってみる。
  • もし、その子どもが混乱するに到った状況が明らかになれば、その解決の見通しが持てるような情報を提供する。
  • 話ができるようにならない場合には、そばにいて話せそうになるまで待つ。

長時間話せるようにならない場合や、興奮が著しい場合や、危険な行動が見られる場合には、精神保健の専門家に紹介してください。

(2)被災した子どもと家族の情報を集める

心理的なサポートが必要な子どもと家族について、「支援した子どもの記録」というプリント(付録1)を 埋める形で情報を集めていきます。ただし、ショッキングなつらかった出来事について詳しく尋ねすぎる と、被災者がその時の状況をありありと思い出してしまって、苦痛を与えてしまう可能性がありますので 注意してください。

(3)現実的な問題を解決する

心理的なサポートが必要な子どもと家族に、「なんとかなるな」「自分にもできるな」と思えるような経験をしてもらうことはとても重要です。達成できそうな目標を設定し、そのために必要な情報を提供し、具体的に行動するやりかたを教え、実際に付き添って実行してもらいましょう。

(4)今後の心理的サポートについての情報提供

災害後の子どもの心の問題についての説明および対処法と、どこでサポートを受けられるかについて記載されたパンフレット(付録2)を渡して説明する。
パンフレットがあると、後で症状が出現した時にあわてずにすみ、また必要な対処法をとることができます。

(5)紹介と引継ぎ

紹介は次のような状況の場合に行います。

  • 切迫した精神医学的な症状がある。
  • 自傷や他害のおそれが切迫している。
  • もともと、発達障害や精神障害などの問題を抱えていて、いまも落ち着かない。
  • 災害で大きなけがをする、閉じ込められるなど、とても怖い体験をした。
  • 大切な人が亡くなったり、悲惨な場面の目撃がある。
  • 災害後長期にわたり(およそ4週間以上のあいだ)精神医学的な症状が継続している。

紹介する際には次のようなことに注意しましょう。

  • 集めた情報を文書にまとめて紹介先に渡す。
  • 紹介が必要な子どもと家族に、紹介先の情報を伝え、なぜ紹介したほうがよいのか、どういったケアを受けられるのかを説明する。

2)災害後の子どもの心の問題についての広報活動

子どもたちの精神的な問題の予防と問題が起こったとき早期に支援が受けられるようにする目的で、災害後によく見られる子どもの心の反応についての説明および対処法と、どこでサポートを受けられるかについて記載されたパンフレット(付録2)を、救援スタッフや被災者に配ります。

3)子どもたちの生活環境を調べる

避難所で子どもたちが暮らしている場合は、どんな生活環境かを調べ、より子どもに適した環境にできないか工夫します。

(1)子どものため遊び場を確保できるか?

子どもの遊んでいい場所を作りましょう。ある程度大人の目が届き、安全で、救援活動の邪魔にならないところがいいでしょう。子どもが昼間そこで大声を出して遊ぶことを周りの大人たちに 認めてもらい ましょう。
可能であればおもちゃを置きます。もし、おもちゃがない場合は、手遊び、しりとり、おりがみ、あやとりなどが考えられます。
できれば時々大人が入って様子を見たり遊びを提案するように周りの大人にアドバイスしましょう。思春期の子どもに、幼い子どもたちの面倒をみてもらう役割をお願いすることも有用です。

(2)睡眠をとることができる状況か?

家族がまとまって、安心して眠れることが必要です。周囲からの視線を少しでもさえぎることができると安心しやすいです。

(3)トイレがスムーズにできる状況か?

恥ずかしがらずに、怖がらずにトイレに行くことができるようにする必要があります。

(4)子どもたちが必要とする物が足りているか?

お尻拭き、ノート、おりがみ、鉛筆、色鉛筆、クレヨン、シャボン玉、ふうせんなど。

(5)トラウマを思い出すきっかけになるものから身を守れているか?

被災者がテレビやラジオの放送などを視聴できる場合、特に子どもと思春期の人には、そうした報道に見たり聞いたりしすぎるとつらくなることがあります。親には、子どもが災害の報道を見たり聞いたりしすぎないように注意してください。また、記者やその他のマスコミ、野次馬から、子どもたちを保護してください。

(6)子どもが周りの人たちといい関係にあるか?

周囲の人々とよい関係を持つことが出来ていると、回復がスムーズになります。家族、親戚、友人と連絡を取り合うことは重要ですが、いま近くにいる人たちとつながりをもつことも重要です。
可能なら、元の保育園、幼稚園、学校などの集団生活に早く戻れるようにしましょう。ただし、元の生活に戻すといっても、みんな疲れていますから、がんばり過ぎないでゆったりしたスケジュールをこころ がけましょう。また、災害発生前からその集団生活でなじめていなかった子ども(例えば不登校の子ども)を集団に戻す際には注意が必要です。

6.大切な人を喪った子どもを支える

大切な家族が亡くなったときに、子どもに起こる反応はさまざまです。亡くなってただちに悲嘆を感じる場合もあるし、亡くなって数週間たってもその家族は生きていて帰ってくると信じる場合もあります。幼児の場合は「死というのは一時的なもので、死んだ人はまた帰ってくる」と考えることもよくあります。5歳から9歳の子どもの多くは、死んだ人とはもうあえなくなるということは分かるけれども、死が自分自身や知っている人に起こりうることだとは信じられないものです。

こういった子どもの反応は正常なのですが、大切な人の死を受け入れられないことが過度に長く続くことや、悲しみを感じたり表現したりすることを極端に避けてしまうことは、後でかえって大きな心理的な問題につながることがあります。

お葬式に子どもが出席することを嫌がらなければ、出席させてもかまいませんが、嫌がる場合は無理強いしないほうがいいと考えられています。子どもが出席できない場合は、別の機会にお線香やろうそくを灯してお祈りをしたり、写真を整理したりといったなんらかの簡単な儀式を行うことは有用です。亡くなった人の思い出を話し合う機会があれば、その人との楽しかったポジティブな記憶を子どもと共有することができるかもしれません。もしかすると、子どもは大切な人をうしなった悲しみや怒りを表現するかもしれませんが、それはできる範囲で受け止めてあげてください。

ずいぶんあとになって、子どもが亡くなった人についての感情を表現することもあります。保護者や周りの人は、その子が感情を表現しても構わないのだと思えるように接してあげましょう。

大切な家族を喪った子どもには、付録2に書いてあるような変化が、より起こりやすくなりますので、よく読んでください。

大切な家族を喪った子どもをサポートするためには、その子どもの保護者をサポートすることが重要です。保護者も家族をうしない悲しみとショックのために混乱し、正しい判断や十分な養育ができないことがあります。以下のようなやり方で、こういった保護者の子育てを支援していきましょう。

  • 保護者の現実的な日常生活の手助けを行う。
  • 上述したような子どもに起こりうる変化について保護者に情報提供し、適切な判断ができるようにアドバイスする。

また、以下のような状態になれば専門家に紹介することを検討してください。

  • 眠れない、食べられない、周りのことに興味がない、ひどくおびえるといった症状の程度が強い、あるいは長期に持続している。
  • 亡くなった人の真似を繰り返し行う。
  • 亡くなった人と一緒に過ごしたいと何度も言い続ける。

親を亡くした子どもの場合、今は大丈夫なように見えても、後で心理的な問題が出てくることがありますので、何らかの形で専門家とのつながりを持つか、少なくとも支援者が長期間フォローすることが望ましいです。

7.持続可能な支援のために

支援をおこなう方々も、ご自身が被災したり、あるいは被災されなかったとしても支援を行っていくことで疲れていくことがよくあります。
息の長い支援を行うためには、支援者が支援者自身の体調に留意し、休みを定期的にとることが必要です。
特に、支援開始初期にハイペースで仕事をしすぎてしまい、あとで調子を崩してしまうバーンアウトという現象があることが知られています。

対策としては次のようなことが考えられます。

  • 疲れを感じていなくても、定期的に休みを取る。
  • 可能であれば、支援者同士がおしゃべりをしたり、ぐちを聞きあったりする。
参考文献・図書
  • 1) 心的トラウマの理解とケア 第2版 金吉晴編 じほう
  • 2) アメリカ国立子どもトラウマティックストレス・ネットワーク,アメリカ国立PTSDセンター「サイコロジカル・ ファーストエイド実施の手引き第2版」 兵庫県こころのケアセンター訳,2009年3月.
    http://www.j-hits.org/
  • 3) Children and Grief American Academy of Child and Adolescent Psychiatry 成育医療研究センターチーム訳
    http://www.aacap.org/cs/root/facts_for_families/children_and_grief

日本児童青年精神医学会(2011.3.25作成)