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災害時地域精神保健医療活動ロードマップ

1.はじめに

災害は予期されない突然の出来事であるとともに、家屋の損壊や、身体的負傷、家族の犠牲や生活環境の変化など様々な要因によって住民に多大な心理的負担を与えます。また、災害時の恐怖や悲惨な光景を目撃することで心理的外傷を被るなど、住民の精神健康が悪化する恐れがあります。精神健康の悪化はさらに、社会機能の低下や対人関係の問題等二次的な問題を引き起こすこともあります。被災者の精神的問題に対応し、その後の精神健康の悪化を防止するための精神保健医療活動が重要です。

(1)災害時における地域精神保健活動の方針

  • 1. 被災によって機能しなくなった精神医療の補填、被災者の精神反応への対応
  • 2. 一般の援助活動の一環として、地域全体(集団)の精神健康を高め、集団としてのストレスと心的トラウマを減少させるための活動
  • 3. 個別の精神疾患に対する予防、早期発見、治療のための活動

(2)災害時精神保健活動の特徴と留意点

被災地での精神保健活動には以下の点に留意することが必要です。

  • 1. 被災後の時期にあわせた適切な介入、ケアを提供する
  • 2. 避難所や仮設住宅など現場に出かけていく活動(アウトリーチ)に重点をおく
  • 3. 生活全体の支援の一環として活動を行い、求められていることを行う
  • 4. 被災者の心理についての正しい知識をもつ(被災者の情動反応の多くは「異常な事態に対する正常な反応」でありそのことを被災者に告げることが必要)
  • 5. 被災地域の特性を把握し、互助機能を尊重、利用する。
  • 6. 関係する諸機関(行政、医療チーム等)と相互の連携を図る
  • 7. 救援者は二次被災者であることを理解し、そのメンタルヘルスの維持に努める

(3)災害の心理的ストレスとそれによる精神的反応・疾患

災害時の心理的ストレスには様々なものがあり、そのことによって精神障害が現れる場合もあります。代表的なストレス要因と反応をあげました。

1.心的トラウマ
  • 災害による恐怖の体験(死や負傷の恐れ、地震の揺れ、火災の炎や熱などの体感、放射線曝露など)
  • 災害による直接の被害(負傷、近親者の死傷など)
  • 災害の目撃(遺体の目撃、津波や荒廃した地域、損壊した建物や悲惨な場面の目撃)
    →不安、恐怖、落ち着きのなさ、情動的混乱、不眠、PTSD(外傷後ストレス障がい)、ASD(急性ストレス障がい)など
2.喪失
  • 大切な人の喪失、家財の喪失、職場やコミュニティの喪失  
    →喪失による悲嘆、罪責感、過失が存在した場合や援助の遅れに対する怒り、うつ病,不安障害
3.被災による二次的な生活や環境の変化
  • 避難所仮設住宅での生活、生活の再建の問題、就労や学業の困難、新たな対人関係のストレス等
    →疲労、焦燥感、気分の落ち込み、うつ病、心身症、身体化障害

(4)被災者の状態と対応の目安

1. 精神科医療機関への搬送など緊急な対応が必要
  • 落ち着かせることが困難な精神反応や錯乱・混迷などの重篤な精神症状
  • 自殺企図など自傷・他害の恐れ
  • 断薬等によるてんかん重積発作など
2. 精神科医の対応が必要
  • 幻覚・妄想など精神病症状
  • パニック発作等不安症状や数日続く不眠、抑うつ症状
  • 精神障がいや発達障害、認知症の被災者の不穏や避難所での不適応反応
  • 高齢者のせん妄
  • 数日続く心的トラウマ反応(PTSD症状等)
  • 断薬への対応
  • 自殺念慮など
3. 支援者(保健師や心理相談員等)の見守り、介入が必要
  • 安否不明者の家族
  • 遺族
  • 保護者のいない子ども
  • 不安や不眠、身体愁訴を訴える人
  • 引きこもっている人
  • 落ち着かない等不安定な様子がうかがえる人
  • 幼い子どもを抱えた母親、妊婦
  • 高齢者(特に家族のいない高齢者)
  • 障がい者(精神、発達、身体など)
  • 透析患者や糖尿病患者等治療継続が必要な身体疾患を抱えた被災者
  • 要介護者とその家族
  • 家族と離れているなど孤立した人
  • 外国人 など

(5)災害後の時期に応じた精神保健医療活動チェックリスト

被災者の心理は、時間の経過に伴い、刻々と変化します。ここでは、被災地の地域保健、および地域精神保健の行政関係者、支援者が行う精神保健活動をあげました。これら被災地の被災状況や人的資源等に応じて柔軟に使用して下さい。

被災直後(1週間以内)
  • *精神科医療機関の機能の補填、入院患者など精神障がい者への対応、避難所等での被災者の精神反応への対応が中心です。
被災直後の時期の被災者の心理的反応
  • ・急性ストレス反応(不安、不眠、恐怖等):多くは正常な反応
  • ・ASD、パニック発作
  • ・既往精神障害の急性憎悪、悪化
  • ・急性悲嘆反応
  • ・急性精神病症状や統合失調症の発症
  • ・認知症患者等の夜間せん妄
  • ・知的障がい者、発達障がい者等の不安反応
  • ・乳幼児の不安反応、退行
■被災直後での精神保健活動
精神科医療保健サービスの確保
  • ・被災精神医療機関の被害の確認(安否、損壊程度、機能の程度)
  • ・入院患者の保護と治療、搬送
  • ・機能できる医療機関のインフラの確保
  • ・機能できる医療機関、周辺精神医療機関の患者の受け入れの状況の確認
  • ・医薬品の確保
  • ・オーバーベットの許可
  • ・被災精神医療機関あるいは周辺精神医療機関を援助するための医師等の派遣 1)
精神障がい者(通院患者)への対応
  • ・投薬・治療が可能な医療機関の通知(避難所、メディア、医療機関等による)
  • ・断薬患者への対応(他医療機関での投薬、あるいは避難所の医療チームからの投薬)
被災地住民への対応
  • ・被災者への対応可能な医療機関の通知
  • ・避難所等での精神保健ニーズへの対応
  • ・被災者の状況の把握
  • ・避難所等での相談に対応できる精神保健体制(相談窓口の確保)
  • ・精神保健対応の需要が高い人(遺族、安否不明者家族、高齢者、孤立者、妊婦、幼い子どもをかかえた母親、障がいを抱えた人)との把握と声かけ、見守り、必要なケアの提供
メディアへの対応
  • ・避難所へ許可なく入ることや、むやみな被災者への取材を行わないような注意喚起(避難所への張り紙など)
  • ・被災地自治体による報道関係者への適正な報道についての依頼
  • ・被災地域の行政、被災者へのマスメディアへの対応を公布
  • ・県の窓口等からの定期的な情報発信
  • 1)被災地での精神医療機関の損壊が激しい場合には、被災地域ではなくむしろ周辺地域の精神医療機関に被災地域への患者の対応が集中する。したがって状況によっては周辺の精神医療機関へ医療スタッフを派遣するほうが有効な場合がある。
急性期(1ヶ月くらいまで)
  • *避難所を中心とした一般被災者への精神保健活動や精神障がい者への対応が中心となります。
急性期の被災者の心理的反応
  • ・心的トラウマによる急性ストレス障害や PTSD などの顕在化
  • ・様々な震災ストレス(人命、家屋の喪失、生活の変化、避難所生活による疲労や不適応、家屋や経済的問題、将来の不安)からくる抑うつ、不安障害、アルコール関連障害の発生
  • ・自殺念慮等自殺関連行動の表面化
■急性期での精神保健活動
精神保健医療対策プランの策定
  • ・精神保健医療対策本部の設立
  • ・対策会議の開催 2)
  • ・被災者のニーズを評価、可能な資源を把握、今後の対応を検討
  • ・必要に応じて、他地域からの精神保健医療チームの派遣の依頼と受け入れ体制
被災地精神障がい者の状態の確認
  • ・保健所や医療機関における被災地の在宅通院患者の安否や状態の確認
  • ・投薬の確保(近隣精神医療機関との連携による処方箋の発行・配達体制)
必要に応じた外部からの精神保健医療チームの受け入れとコーディネート
避難所・仮設住宅での被災者への対応
  • ・定期的な巡回による状況の把握
  • ・遺族や安否不明者等家族の状態の把握、見守りや声かけ、必要に応じたケア
  • ・不安や不眠等訴えのある被災者への対応
  • ・避難所での不適応反応への対応
  • ・避難所での被災者の反応の把握、潜在的なメンタルヘルスニーズの把握と対応
  • ・飲酒への注意などメンタルヘルスについての啓発
地域にいる被災者への対応
  • ・地域巡回による在宅被災者の状態の把握、必要に応じたケアの提供
  • ・地域医療関係者による精神障がい患者の早期発見・早期介入
  • ・学校、保育園・幼稚園、職場などを解してのメンタルヘルス情報の提供や早期発見・早期介入
電話相談(こころのケアホットラインあるいは、災害相談電話への精神保健スタッフの配置)の設立
被災者を支援するスタッフ(行政担当者、保健師、保育士、教員、身体医療チーム)への被災者の心理や問題、対応についての啓発
被災者への精神健康についての予防的介入
  • ・スクリーニングを用いたハイリスク者の同定とフォロウ、必要に応じた介入
  • ・被災者のメンタルヘルスの悪化を予防するための啓蒙(メディア、パンフ、講習会)
支援者への支援
  • ・救援者へのメンタルヘルスに関する啓蒙、教育(パンフ、管理職への講習)
  • ・スクリーニングによるハイリスク者の同定と早期介入
地域全体のメンタルヘルスへの意識の向上
  • ・一般被災者、学校関係者、保育士、内科医への精神健康に関する啓発、教育
  • 2)精神保健対策会議のメンバーとしては、地方自治体の精神保健担当行政、精神保健病院協会等精神科医療機関の協会、医師会、精神保健福祉センター、被災地の保健所、大学の精神医学教室等メンタルヘルス専門家などで構成される
中・長期 (被災から数ヶ月後~数年)
中・長期での被災者の精神的反応
  • ・PTSDやうつ病、複雑性悲嘆など慢性の障害の顕在化
  • ・様々な震災ストレス(人命、家屋の喪失、生活の変化、避難所生活による疲労や不適応、家屋や経済的問題、将来の不安)からくる抑うつ、不安障害、アルコール関連障害の発生
  • ・生活の再建の差による被災者のはさみ状格差
■中・長期での精神保健活動
精神保健相談業務の拠点設置
避難所・仮設住宅での精神保健活動
  • ・定期的な巡回による状態の把握
  • ・スクリーニングを用いたハイリスク者の同定と訪問、必要に応じた介入
  • ・遺族、高齢者・障がい者など要援護者、孤立者の訪問と見守り、必要に応じた介入
  • ・孤立化防止のための被災住民の交流の促進
一般住民に対するケア
  • ・教育、啓蒙
  • ・スクリーニングを用いたハイリスク者の同定と訪問、必要に応じた介入
  • ・高齢者、障がい者、孤立者の訪問と見守り、必要に応じた介入
救援者、地域の行政担当者への支援
地域全体のメンタルヘルスへの意識の向上
<参考資料>
  • 1)金吉晴:精神保健医療活動マニュアル. 平成16年度厚生労働科学補助金特別研究事業「新潟県中越地震を踏まえた保健医療における対応・体制に関する調査研究」自然災害発生時における医療支援活動マニュアル.国立国際医療センター,97-103,
  • 2)平成13年度構成科学研究費補助金(厚生科学特別研究事業)災害時地域精神保健医療活動ガイドライン,2002
  • 3)厚生労働省 精神・神経疾患研究委託費外傷ストレス関連障がいの病態と治療ガイドラインに関する研究班:心的トラウマの理解とケア,じほう,東京,2002